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ターハル・ベン=ジェッルーン「火によって」感想。革命と焼身自殺。 [読書メモ]

火によって

火によって

  • 出版社/メーカー: 以文社
  • 発売日: 2012/10/24
  • メディア: 単行本

モロッコ出身の作家が、アラブの春のきっかけとなったムハンマド・ブアズィーズィの焼身自殺をオマージュして書いた作品。

短編ともいえないけど、長編ともいえない、簡潔にまとまった話で、活字も大きく薄い本。

それにかなりしっかりした分量をとって役者解説がついている。


背景を知らず、解説も読まなければ、あ!!!という感じだろう。


辛酸を舐めながらなんとかギリギリ生活している青年。

でも恋人もいるし、家族もいる。

その思いが、賄賂を渡したり、密告したりしないと、すべてを奪われるような腐った世の中で、なんとか彼を繋ぎとめているが、ある時、生活費を稼ぐ唯一の手段だった荷車と荷車に載せていた商品をすべて警官に奪われてしまい、市長にその狼藉を訴えに面会を要求しに市役所にいくが、面会は許されない。

限界を越えてしまった彼は、市役所の前で焼身自殺をはかる。

彼はすぐには死ななかったが、約20日後に病院で死亡する。

大勢の人が目撃し、その画像が拡散されたことによって、大統領が病院に面会に訪れる。

人々は彼の写真を掲げてデモをはじめ、革命のシンボルになる。

映画プロデューサーが金をもって、彼のストーリーを利用しに、家族のもとにやってくる。


ただこれはほぼ実際に起きた話なのだ。

もちろんところどころ、設定も違うし、ノンフィクションではなく、作家として再解釈して物語として再構築した話というたてつけだけど、焼身自殺を図った日付と、亡くなった日付は、ムハンマド・ブアズィーズィの日付を使っている。


このあと、彼に続き、チュニジアでは半年の間に100人もの若者が焼身自殺を図ったという。

そしてチュニジアの革命に刺激を受けた中東の様々な国で革命が起きるが、民主化にある程度成功したのはチュニジアのみで、他のアラブ諸国では、内戦に突入したり、テロが増大して無政府状態になったり、状況が悪化したケースが多いとのこと。

特にシリアは内戦が泥沼化し、経済破綻し、暴力が横行し、国家破綻、難民が多数欧州に押し寄せることに。

さらに、国をまたいでテロ組織が力を持って凶悪化し、国際的に活動するようになり、多くの人々の生活は台無しになり、結局のところ、アラブの春は一部地域を除き挫折したといえるだろう、と。


アラブの春といえば、プラハの春のことを思い出す。

結局1968年春にはじまったプラハの春も、わずか1968年8月、半年あまりの間にソ連により武力制圧されて挫折したのだ。


革命・・・

ちなみにふと、ブラッディ―サンデーとは何なのか、U2の曲を思い出しながら調べてみると、北アイルランドでイギリス統治の反対運動デモを行っていたところ、イギリス軍と衝突、軍によって銃撃されて14人死んだという1972年の事件と。


最近、DMM英会話でセルビアの先生が、セルビアがほぼ独裁国家みたいな感じでマジで終わってる、もう人々も

我慢の限界だ・・と。

でもそんなに人々が不満を持ってるのに、なんで選挙で政権が変えられないのか?という質問をしたところ、なんかどうしても選挙結果を覆せないような、変えられないしくみになっているらしい。

ちょっと私の英語力の限界で、今一つ理解できなかったのだが、要するに三権分立がうまくいってなくて、政権を選ぶ権利がある有力者の地位につけるのが、そもそも政権のバックアップのある人のみ、みたいな感じと解釈。

ちょっとしらべないとよくわからないが。

でももう変わる、変える、と言っていたので、「お、革命か」と喉まで出かかったことを思い出した。


でもさ、独裁政権が嫌だから民主化をもとめるというケースの場合、なんで独裁政権を維持してこれたのかってことだけど、要するに反抗的な態度を見せた人は武力制圧してきてたからなわけで、国際的な支援がない状況だと、よりむごたらしく多数の人が惨殺されるという事態を招きかねないということを改めて思った。


先日見た「娘は戦場で生まれた」のときにも、ちょっともやったことを思い出した。

革命だ、という。わかる。

だけど、その革命という名の抵抗をやめないことで、さらなる殺戮を招き、闘争の巻き添えとなって子どもたちが死ぬ。

子ども達のことを思ったら、最後まで戦って美しく死ぬことよりも、惨めでもいったん逃げて勝機を待つんだよ、とにかく生きるんだよってことも少し思った。

もちろん、勝機がある、ここで撤退したらすべては無駄になる、国際社会の支援を得られるまでふんばるんだ、という視点があったのだろうと思うけど・・。


と、話がずれたけど、「四月革命」みたいに、革命が成功したら、「革命」と呼ばれているのかな。

「プラハの春」「アラブの春」みたいに、革命が民衆蜂起で終わってしまって、成功したとはいえないと、革命という名前で呼ばれないのか??


革命とは・・・。

久しぶりに中谷美紀のMIND CIRCUSのことを思い出した。

名曲だったよな、、なんでだろう確か革命のことを歌ってなかったっけ?と思ったら、Revolution soldiersとか、ベルリンの壁崩壊とかが歌詞に出てくるんだな。。

そういえば、ベルリンの壁崩壊って、革命なのか?と思ったら、一応「東欧革命」を象徴する出来事、とのことだった。

そうか、プラハの春は挫折したけど、1989年には東欧革命で民主化に成功したということか。

そうかそうか、革命が実を結ぶこともあるんだ、と勇気づけられもする。


ちなみに私はこの言葉、初めて知った気がするんだけど、どうなんだろう。

東欧革命は冷戦を終わらせた出来事として有名である、と記載ありだけど・・。


本のことより「革命とは」を学ぶ回になってしまったが、本の感想という意味だと、守衛のところで涙が出た。

市長にあわせられないっていって、市役所の守衛が主人公ムハンマドを追い払った直後に、ムハンマドが目の間で焼身自殺を図るわけで、守衛は火を消そうとしたりするけど、手が付けられず黒焦げになった彼を目の前に、「全部俺のせいだ、俺が助けてやらなきゃならかったのに」と泣く。


このあたりは、半地下の家族のシーンを思い出した。

庶民が限られた職のパイを奪い合って殺しあう惨めさの中でも、生き抜くためにプライドを捨てて我慢して生きていたお父さんも、最後リミッターが切れたら、我を顧みずにブルジョアを殺しにかかったあの瞬間。



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