チャイルド44の感想 [読書メモ]
久々に、がっつりと小説を読みました。
私は本を読むのが遅いので、小説を読むのに結構な時間がかかるとこともあり、なかなか大変。
書を捨てて街に出よ、という言葉もちらつく。
こうやってせっせと本を読む時間を、もっと外に出て外交的に使ったほうがいいんじゃないかとか。
勉強とか仕事とかに使ったほうがいいんじゃないかとか。
とはいえ、たまには本を読んでいきたい、それも実用書ではなくて、フィクションを、という思いがある。
さてこの本、冒頭からかなり刺激がつよくて、ぐいぐいと持っていかれます。
すごく面白かった。
優秀なサスペンスによくあるように、謎解きとかプロットの面白さというエンターテイメントとして優秀なだけでなくて、文学的にも刺激があるのがいいね!
1984のような、監視社会の描写や、飢饉によるカニバリズム、強制収容所への送還中の人口過密な列車の中といったホロコーストを連想させるような描写、拷問などなど、極限状況での人間について。
それから、もっとちょっとした、でもとても原始的な感情の機微、幼い兄弟同士の優劣からくる嫉妬の感情についても、とても痛切でハッとさせられるものがあった。
それから、題材となったホロドモールというウクライナの飢饉のことや、ソビエト連邦のこと、アンドレイ・チカチーロという実在した連続殺人鬼のことなどを知れたので、勉強にもなった。
でも、著者がドラマの脚本などを書いていたというのを知ってしまったからかもしれないけど、ちょっとドラマの脚本っぽいかもしれない。
毎回ハラハラとした、絶体絶命の危機や、このあとどうなる?という刺激が盛り込まれているんだけど、伏線の回収がちょっとお粗末な部分があったりする。
以下ネタバレです。
私が一番残念に思ったのは、犯人が被害者の胃を切除して持ち帰り、焼いた上で猫に食べさせていたその意味である。
それについて、どこかに回答ありましたか?
私が読み飛ばしたのかなーとも思ったけど、どうにも見つけられず。
それから実在の殺人鬼アンドレイ・チカチーロに題材を得ているんだけど、殺人の動機は小説では変えてある。
実在の殺人鬼の動機は、異常性欲。
先天的な障害でおねしょがなかなか治らずインポテンツだった彼は、常に親からもまわりからもバカにされいじめられ、劣等感にまみれて育ち、性欲が屈折。
かよわいものを虐待するというサディズムで性的に興奮するようになる。
妻子を持つことはできたが、機能上の問題から、性交そのもので満足感を得ることができないこともあり、過激な刺激によって性的な満足感を得る方向にいったようである。
まあそれに加えて、自分の利益のためなら他人をどんな窮地に陥れてもなんとも思わないという、文字通りのサイコ人格なんだろうけど、まあそのサイコさんの動機は性衝動ということで、なんとなく納得はいく。
でもこの小説での犯人の動機は、慕っていた兄に自分の存在に気づいてほしいからなんだよねー。
まあ確かにさ、犯罪者の心理として、一番意識している近親者に目に物見せてやりたいっていうのはあるとは思うし、著者が描きたいのは、どちらかといえば体制批判であって、犯罪心理学的なことではないので、犯罪者の心理をあえて掘り下げなかったんだろうという気もするけど、、、ちょっと納得感が薄いかなー。
百歩ゆずって、兄への暗号として、狩りに見立てた連続殺人をしたのはいいし、兄とした狩りの瞬間が人生でもっとも興奮できた至福の思い出だったから、それをおもって狩りに快楽を見出すようになったのもわからないでもない。
でも胃を切除して猫に食べさせる意味がよくわからない。
あくまで狩りですから、持ち帰って食料にしないとね!ということなのでしょうか。。
それから主人公の元部下が、主人公に対して異常に個人的な執着を持って、それも目の上のたんこぶだった、つまりは嫉妬というだけの動機として書かれているのだが、それにしてはずいぶんしつこくて、それこそもっと根深い兄弟同士の愛憎とか、実はホモセクシュアル的な欲望を抱いてたならわかるけど、、、感はあるね。
なんかもう少し、そこまでする強い動機があってもいいような気がしたのでした。
まあでも面白かった!
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