ハイファに戻って/太陽の男たち 感想 [読書メモ]
パレスチナ問題の渦中に生きていた作家による、苛烈な短編集。
なんと作者は36歳で爆殺されたという。
爆殺って、どういうこと?と思ったが、爆弾が仕掛けられていた車に乗って暗殺されたということだ。
で、すごい。傑作だね。
ただ痛くて、辛くて読むのに覚悟がいる。
私は全体的にぺらぺらめくって拾い読みしているが、ちゃんと完読したのはまだ1篇のみ。
短編集だからまだ助かるが。
死の臭いが漂っている、この主人公が痛くて悔しくて絶望しながら30ページ後に死ぬってわかってるとなかなか読み進めるのが辛い。あらすじを先に読まなきゃよかった。
でもちょっと読んだ限りだと、男性が戦争で局部を喪うシーンが出てきたりする。痛い。
さて、読み終わったのは「路傍の菓子パン」。
こちらも痛い。
ギロチン的な話がでてくる。
苛烈な状況に生きている人たちを描写すれば、いろいろ仕方がないんだが、すごいのはやっぱり作家ってさすがだなというような洞察力と表現力。
難民の少年たちはみんな「あきらめの一歩手前の願望に目をぎらつかれせてる」という。
それに、そういう少年を前にして、何をどうすべきか感情を乱させる主人公の描写を通して、より少年のどうしようもない状況や絶望を描いてるのがすごい。
少年に同情して深入りしてしまいそうになりながら、惨めだと同情されてると思われて彼のプライドを踏みにじりたくないとか、もやもやしているのだが、彼にウソをつかれていることに気づいて、傷つく。
10歳や11歳の子どもでも、生き抜くためになんだってする、教師をだますことなんか、酔った客にもう一つ菓子パンを余計に買わせるくらいのことなんだ、と思おうとしてみたりする。
だけど、最終的に彼のウソは、どこまでウソなのかよくわからない。
でもおそらく、苛烈なことがありすぎて、直視できない、だからそれをなんとか少し変えた受け入れやすい形で話すことで、折り合いをつけているらしいことはわかる。
嘘をつかれて、彼の涙さえ信じられなくなっていた主人公だが、おそらく難民の少年は、本物の傷つき絶望した感情と、自分の心を守るための嘘と、とにかくサバイブ、今日を生き抜くための図太さと、それらを行ったり来たりしながら生きている。
その甘くなさが、とてもリアルで、だからこそ痛切で、大事に読みたい本だ。
いやしかし久しぶりにガッツリした小説を読んでいる気がする。
心に余裕ができたのかも。
コメント 0