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カズオ・イシグロの「日の名残り」読了。 [読書メモ]


日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2001/05
  • メディア: 文庫




 
いやあ、素晴らしかった。
そして品が良いよね、彼の小説。
ひょっとして村上春樹より好きかも、とこれを読んで思った。
カズオ・イシグロの作品を読むのは「私を離さないで」「私たちが孤児だったころ」に続き3作目。 
  • 「私たちが孤児だったころ」なんて、読んだことすら忘れていたので、まあたいしたことなかったのかもしれないが、
  • 「私を離さないで」を読んだときの、強烈に胸がキューンとする感じは、今でも思い出せる。
  • あれはなかなかすごい作品だった。
 
こちらはそこまでの強烈さはない。
でも、なかなかに優れていますね!という感じ。
そして、イギリスとは、品格とは、というものを表現しようとしている点でもとても興味深い。
イギリス人にとっての、フランス人、アメリカ人、ドイツ人とはこういった存在なんだな、というのもとても興味深い。
 
第二次大戦頃のヨーロッパやアメリカの動きに詳しければ、もっと面白いのかも。
 
これを読むと、食えない・・と言われるイギリス人が少し好きになる。
 
日本人の根本にあるのが武士道であるとしたら、イギリス人の根本には紳士たれ、というものがあり、
アメリカ人はには「正義」があり、フランス人を支える道徳観とは一体なんなんだろう。
 
日本にも「粋」であること、という概念がある。
「品格」があるというのは、そういうものに近い概念である。
 
どちらも信用できるものな気がする。
まあ、アメリカだったら「フェアプレイ」とかになるのかなあ。
 
 
でも結局、悪には、そういう綺麗な手じゃあ立ち向かえない。
利用されてしまう。
狡猾にグレーな手段をつかって立ち回って初めて勝てる。
 
そういう側面がこの世の中にあるのは否めない。
 
面白かった。
 
この物語の主人公、執事のスティーブンスみたいな仕事一筋の融通の利かない男、日本人なら想像できるけど、
イギリス人にもこういうタイプはけっこういるのかな、、だったらますますイギリス人はかわいいな。
 
フランス人やイタリア人にはいそうもないタイプ。
 
そしてこの男は、仕事一筋に捧げた人生を振り返って、泣く。
自分はずっと正しいことをしてきたと思っていた。
でもそれは正しくなかった。
「私は選ばずに信じたのです」。
 
たとえ間違った道を選んだとしても、自分の意思で選んだならまだいい、
自分は選ぼうともせず、盲目的に信じていただけだった・・。
 
でもそこまで主人を信じて、主人と、その主人につかえる自分を誇りに思って
仕事で十分に充実感を味わい、自分の有能さを実感できた人って本当に幸せだと思うよね。
 
日本には執事というシステムはないけど、戦国武将に使えた家来とかこういう感じだったんだろうな、
と通づるものがある気がする。
 
命に代えておつかえ致しまする・・みたいな。
 
そして日本人のDNAにそういうのは組み込まれていて、けっこう皆んなそういうのが好きなんじゃないかと思う。
国取り合戦的なものが面白いというのもあるけど、そういう忠臣みたいなのが好きだから、時代劇が人気があるっていう側面はあるんだろうなあ、と。
 
カズオ・イシグロも、5歳のときに長崎からイギリスに渡ったということなので、両親や祖父母はバリバリに日本人なわけで、
イギリス人とはいえ、日本的な影響はけっこう受けながら育った人だろうしなあ。
 
「私にはダーリントン卿が全てでございました」
 
そう、出会ったばかりの見知らぬ男に告白して泣いてしまう主人公。
得てして、そういう本当の独白って、見知らぬ気のいい男にだからこそしちゃうんだよねえ、というのがリアル。
 
そして泣き出した男に、気のいい男は「あれあれ、やだよ、おまいさん」みたいな感じ。 
そしてそういう気のいい男こそ、「俺は難しいこたわかんねえ」というスタンスながらも、かなりよいバランス感覚で生きていて、主人公の事情に踏み込み過ぎず、「みんなそういう時もあるよ」って感じでさりげない優しさを差し出す。
 
しかもそれは、朝一回鼻をかんだハンカチっていうのが、イシグロさん、いい感じ。
 
好きですね。
 
ほかのイシグロ作品と共通してるのは、「切なさ」かなあ。
そして「喪われしものへのノスタルジー」。
 
むかし、確実にそこには愛やあたたかさがあったけど、今はもう喪われた。
 
でも本当にいい人生だよね。
いつかは喪われる。
永続するものなんてない。
 
でも、あああの人は私の全てだった・・・
 
そう思えるくらい完全燃焼したい。
 
それが、たとえ間違った選択だったとしても。
盲目的に信じていただけだったとしても。
少なくとも、盲目的でいられるほどのものではあったのだから。
 
恋愛は両思いであったにもかかわらず成就しなかった。 
でも仕事にこれだけ捧げたせいだったら、それはそれで申し分ない。
 
世に残ることもない、たかだか召使の一生。
でも、仕事人として、ここまで充実できたなら、素敵だな。
 
そして生真面目一辺倒な品のいい、そろそろ老境の域に入り始めるイギリス人が、
これまでまったくもとめられてこなかったスキルの練習、
新しいアメリカ人の主人のために、ジョークの練習を始めるのである。
 
ほろっとする。 
ほんと、うまいなあと思う、イシグロさん。 
 
 
ちなみに後書きで丸谷才一は、フォースターのハワーズ・エンドに、この小説は似ていると言及。
こちらも読んでみたいな。 
 


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