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ビル・カニンガム&ニューヨーク 至福の映画 [映画メモ]

Bill Cunningham New York [DVD] [Import]

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  • 出版社/メーカー: Zeitgeist Films
  • メディア: DVD
昨日、映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」を見てきた。
ビル・カニンガムのことは、映画を見るまで一切知らなかったのだが、
映画の説明を読んで、ピンと来たので見に行った。

やはり自分の嗅覚を信じて正解だった。

NYのストリートファッション・カメラマンのおじいさんのドキュメンタリー映画だ。

ここまで映画を見て幸福な気持ちになったことが今まであっただろうか。
もちろん、平日夜遅くの空いた映画館のゆったりとしたシートで、ビールを飲みながら見たという体験的な要素もある。

だが、それだけではない。
写真を撮った後の彼のこれほど楽しいことはないといった嬉々とした笑顔、
彼の言葉一つひとつが私に幸せな気持ちをくれた。

彼が好きだ。

びっくりするほど生き方にブレがない。
また彼のファッションへの気持ちにも共感できる。
ファッションが大好きで、本物を見極める目があるからこそ、
かっこわるいファッション=実用性のない服やら、、が大嫌いなんだと思う。


ファッションへのこだわりがあるからこそ、質実剛健なものを愛するのは、
とてもわかる。


彼のそんなところも大好きだ。

「ファッションなんて必要ない、世の中にはもっと切実な問題がたくさんあるという意見もあるけれど。。ファッションを手放すことは、文明を放棄することだと思う。ファッションは日々と生き抜くための鎧なんだ。」

だっけ?
その彼の言葉に、私はなぜだか知らないけど涙が出た。

アーティスティックな感性を持っていて、実用性ばかりを追い求める周りと
価値観があわない人間が、、自分らしさを発露して、自分自身をこの世に打ち立てて、
世界とコミュニケートするのに、ファッションがどれだけ有効か、ということがわかるから。


それから、取材中のセレブパーティで、水一杯飲まないという徹底ぶり、取材費も受け取らない徹底ぶりは、なかなか出来ることじゃないと思う。

「自由でいるためには、金を受け取らないこと」

すごい高貴な言葉だと思う。

ふつうの人間は、自由でいるためには金が必要だと考えるのに。

でもそうだ、彼の生き方を見ていると、所有しないから自由で居られるのだ。
食べものにも、着るものにも、住むところにも頓着しない。
プライベートもない。

だからこそ、どこまでも自由に、どこまでも素晴らしい仕事ができるのだわ。

そして彼の性別や性向、階級、年齢などを全然問わずに人と接する姿も本当に見ていて気持ちよかった。
これも本物を見極める目があって、権力や金などのおもねる意図が毛頭ないからこそだと思う。

そして彼が何ものにも縛られない姿勢を50年以上も貫いてきたからこそ、
彼の仕事は、この上なく貴重なものとなり、ファッション界の人間が彼を敬ってやまないのだ。

彼はいう。
「誠実に働くだけ。それがNYではほぼ不可能だ。正直でいることは、風車に挑むドン・キホーテだ」と。
それは「だから自分は正直者なんかじゃない」というニュアンスにとれた。

でも、ここまで清廉な人物はそうそういないように思った。
うらやましい。

ここまで清廉になれるだろうか、そしてここまで好きなものに対して純粋になれるだろうか。

まあでも、彼がファッションに恋をしただけじゃないんだろうな、
ファッションも彼に恋をしたのだ、相思相愛だったのだろう。

だから彼は50年以上も彼はずっと夢中でいられたのだろう。

そして審美眼という才能に加え、しなやかさと頑固なタフさもあったからこそ、自分スタイルを貫くことができたのだろう。


今はただの痩せたおじいちゃんだけど、若い頃の彼の美しいことといったらない。
そして帽子デザイナーとしても、かなりの評価を得ていたようだ。
そんな彼が、ゲイではないか?と質問されるのはまあそうだろう。
その答えに彼は、誰とも恋をしたことがない、と答えていた。

真実はわからないけれど、でも彼の仕事は楽しいだろうと思う。
彼しかできない仕事で、夢中になれる大好きな仕事だ。
仕事に全てを捧げるに足る、仕事だろう。

しかしそういう仕事は、与えられたものではなく、彼が自分で創造した仕事だ。
生き方を仕事として成立させたのだ。

生き方=仕事、というのは、ちょっと戦場カメラマンっぽい。

だから彼は、これは仕事じゃないと言う。
なんて素敵な生き方だろう。

そしてNYの魅力も、この映画によって思い知ることができた。
けっして住みやすい街ではないが、ここに集まる人間には野心がある、それが面白いと。

きっとそうだと思う。

私もNYに行かなきゃ。
NYで、とんがった格好して街を歩かなきゃ。
そして一枚でもいいからビル・カニンガムに激写してもらわないと死ねない。
そう思わず思ってしまうような映画だった。

監督の言葉がHPに載っている。

「私は彼の伝記映画を作りたいわけではないのです。喜びといった、もっと実体がなく、目には見えないもの(決して力が弱いという意味ではありません)を捕えたかったのです。それはビルの本質でもあります。ビルはユニークで個性的なものを記録することに人生を費やしています。私はこの映画を、ビルのポートレート、さらにその延長線上にあるビルが愛する街ニューヨークのポートレートにとどまらず、自己表現と自己発案への賛辞にしたかったのです。」

確かに、自己表現への賛辞になっているからこそ、私はこの映画を見ていて、こんなにも幸福な気持ちになれたのだと思う。



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